語り部 川崎杏樹さんインタビューVOL.2

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はたらくことメディア 川崎杏樹

「生きていればどうにでもなる」東日本大震災の語り部、川崎杏樹さんが語る生きていることの意味とは。

2022.11.11

川崎杏樹 プロフィール(取材当時)

1996年生まれ、釜石市立釜石東中学校2年生で東日本大震災を経験。
山梨県の大学を卒業後、地元釜石への貢献を想い2020年より震災伝承館「いのちをつなぐ未来館」で伝承活動を行っている。
防災を広く効果的に普及させるためのプログラム開発やオンラインでの伝承など若年時に震災を経験したからこそ伝えられる視点で様々な取り組みを行っている。


前向きに生きる理由

ー 多感な時期に経験した「日常は一瞬でなくなることもある」という経験は人生に影響があると感じることはありますか?

はい、それはすごくありますね。
まず想像してみる、考えてみるということが震災をきっかけに増えました。
私の家族は幸い無事でしたが、ほとんどの同級生が家が流されたり、誰かを失ったりしていました。普通が普通じゃないということです。
だから、これを喋ったら誰かが間接的に傷ついてしまうのではないかとか、気を遣ったり考えたりする機会が多かったというのもあり、相手の立場や感情を想像するということは当たり前になりました。
震災がなければたぶん自分について考えるとか、自分が何をしたいなんて考えなかったと思います。
たくさんのものを失い、嫌なこともたくさんあったけど、それだけではなかったと思っています。
やっぱり私の中では震災は大きなきっかけです。

ー 震災で大きなきっかけを得て生きていく中で、壁にぶつかることもあると思います。そんなときはどうしていますか?

なんでもとにかく一旦やってみます。
これは好き、これは嫌いなんだとか、自分を知る経験になると思うので、それぞれの経験は無駄になることは無いと私は思っています。
壁にぶつかった時、人の話を聞くことも大切ですが、聞きすぎると余計に悩みにハマってしまうこともあると思います。
だからやはりそこは自分で「まずやってみる」ということが大切だと思います。
半歩でもいいので前に進んでみるということです。
普段のインタビューではこういったことを聞かれないことなので、答えるのが正直とても難しいです。

でも、悩んだ時に私が最終的にいきつくのは、生きていればなんとかなると思うということです。
身近で本当にたくさんの命が失われたので、そう思うのかもしれませんが。

生きているということは、楽しいとか嬉しいというプラスの気持ちを感じることもあるけど、
その反面やっぱり悲しく苦しいこともある。

だから、何か辛いことがあっても、生きていればいいことはあるし、どうにでもなるんだと伝えたいです。私自身は悩むようなことがあっても一通り悩んだら、
「いいや!生きているんだから!」と思うようにしています。

だって、私もあの日死んでいたかもしれないですから。

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ー 少しでも遅れていたら、川崎さん自身もあの海の中にいたかもしれないという感覚があるということですか?

はい、すごくあります。
ここでああしていたらとか未だに考えます。
もし今日何かがあって、もう二度と会えなくなったら嫌だなとそういう風に考えてしまうこともあります。
だから日常生活でも、家を出る時はどんなに喧嘩をしていたとしても両親に「いってきます」と必ず言う様にしています。

ー 最後に防災を通して伝えたいことはありますか。

あったらいいものはたくさんあるけど、助からなければ意味がないので、まずは逃げるべきところを知っているべきということです。
でも、何よりも大切なことは自分の命は誰かに委ねてはいけません、守るのは自分自身です。
学校生活など団体で動く必要があるところでは、学校が責任をもって助かるための方法を教えなければいけません。
マニュアルがしっかりしておらず、大きな犠牲がでてしまった学校もありました。
マニュアルがしっかりしていればパニックの時に先生も迷うこともない。親も子供たちがどこに逃げるのかということもしっかり把握しておいて欲しい。
子供たちの命を守るためにも、先生、親御さんが協力してマニュアルをしっかりとつくり命を守ってください。

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「生きていればなんとかなる」


ジブリ作品「もののけ姫」のラストシーンで森や築き上げてきたものが全て無くなってしまった時に
「あ〜何もかも終わりだぁ〜」と言う者に対して「生きてりゃなんとかなる!」
と言うシーンに川崎さんは自らの経験を重ねます。

目の前で日常の全てを飲み込む濁流の圧倒的な力を眺めながら、
もののけ姫のシーンと同じ様に「あぁ〜ぜーんぶ流されちまった、もう終わりだ」
呟いた声が残る津波の動画がYouTubeなどにたくさん残っています。

川崎さんもその動画と同じ光景を中学2年生の時、目の前で経験しているのにも関わらず、
彼女が選んだのは絶望ではなく、前を向き精一杯生きていくということでした。

私たちは運命は変えることはできないのかもしれないが、生き方は自らが選ぶことができるのです。

命は自分で助けるものであり、誰かに委ねてはいけないものだと、
真っ直ぐに伝える川崎さんは自らの人生と防災というテーマを通して、
大切な命を生きているからこそ意志を持って生きることの大切さを伝えています。

取材・文:小川圭美

いのちをつなぐ未来館ーうのすまい・トモス
〒026-0301 岩手県釜石市鵜住居町4丁目901番2
TEL 0193-27-5666 FAX0193-27-5667

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