「生きていればどうにでもなる」東日本大震災の語り部、川崎杏樹さんが語る生きていることの意味とは。VOL.1
2022.11.4
川崎杏樹 プロフィール(取材当時)
1996年生まれ、釜石市立釜石東中学校2年生で東日本大震災を経験。
山梨県の大学を卒業後、地元釜石への貢献を想い2020年より震災伝承館「いのちをつなぐ未来館」で伝承活動を行っている。
防災を広く効果的に普及させるためのプログラム開発やオンラインでの伝承など若年時に震災を経験したからこそ伝えられる視点で様々な取り組みを行っている。
東日本大震災から5年、10年と暦を「ひとつの区切り」と言われ、3月がくるたびにニュースに取り上げられていますが、
実際に震災について多くを語りたがらない人は未だ少なくありません。
あまりにも多くのものを失った人々には「日にち薬」が癒せない深い悲しみを抱える人がいるのは事実で、
豊かな海と共に栄えてきた町を完全に遮断する要塞のような防潮堤は、ここで生きると決めた人たちの覚悟を感じる反面、
真新しい建物と元から何もなかったかのような更地が目立つ違和感に痛みを感じました。
岩手県釜石市の死者は888人、行方不明者数は152人(データ出典元:岩手県庁岩手津波アーカイブ希望より)
そのうち死者・行方不明者の半数以上を占めたのは鵜住居町でした。現在、震災の出来事を教訓として、
未来の命を守るための防災学習ができるいのちをつなぐ未来館ーうのすまい・トモスがあります。
自身が鵜住居町で被災し、当時中学2年生だった少女が、
現在26歳(インタビュー時)となり震災の経験を語り継ぐという生き方を選んだ川崎杏樹さんに話を伺いに鵜住居町に行ってきました。
多感な年頃である中学2年生に経験した大震災は、川崎さんの人生にどのような影響を与えたのでしょうか。
明るく前向きなエネルギーに満ち溢れた彼女から、防災という枠を超えたお話を伺います。
人生を変えた震災ボランティアとの出会い
ー 大学で県外に出られていると思いますが、なぜ地元釜石で語り部としての仕事を選ばれたんですか?
地元釜石の役に立ちたい、貢献できることをしたいと思ってはいましたが、
語り継ぐことを目標に生きてきたわけでは無いんです。
それまではあまり地元が好きではなかったのですが、震災をきっかけに変わりました。
そこで地元に貢献できる方法を探すために大学にいったので、
大学卒業後に地元に戻るということをはじめから決めていました。
だから、この仕事を選んだ理由はみなさんが夢を叶えるのと同じ様に、私がやりたいこと、できることを探した結果、
辿り着いたのが「いのちをつなぐ未来館ーうのすまい・トモス」での語り部としての仕事だったということです。
ー 震災の前は地元が好きではなかった?
はい、震災の前は、都会に憧れもないただの田舎町だと思っていました。
ところが震災があり、失ってはじめて気がつくというところがあった。
そして、ボランティアの方々との出会いが私にとっては大きなきっかけだったと思います。
全国からたくさんの方が来てくださったのですが、何度も繰り返し来てくださる方がいたり、年齢層も様々でした。
私に釜石のいいところをたくさん教えてくれたのはボランティアの方々です。
暮らしを取り戻すためにも 大人達が一生懸命に働きかけ、子供達のケアをするためにイベントを開き、
頑張ってくれている大人たちの姿を見ることで、自分も大人になったら
地域のためになるようなことを出来るようになったらいいなという風に考える様になりました。
人との関係があったからそう気づいたのだと思います。
小さな頃からお盆やお正月にはたくさんの親戚が集まり、
若者と比べて訛りが強く聞き取りの難しい強いおじいちゃん、おばあちゃんたちとの会話を楽しみ、
年の近いお兄ちゃんお姉ちゃんと伝統芸能をするなど、学校以外のところでも様々なところで人と関わることが多かったからこそ、ボランティアの方との会話から前向きなきっかけや気づきをキャッチできたのかもしれないと川崎さんは語ります。
日本全国、そして世界中から被災地に対して「何かできることを」とボランティアとして行動した行いが、
誰かの人生に大きなきっかけを与えるという事実がそこにありました。そして被災して苦しみを抱えながらも、
地域の大人たちが暮らしを取り戻そうと必死に行った前向きな想いとその姿は、多感な時期に被災した子供たちの心にしっかりと刻まれていました。
さまざまな取材を受け入れることで、より多くのひとたちに「防災」を届けることができるとして
インタビューを受けることも一つの機会と向かい合う川崎杏樹さん。
次回、私たち はたらくことメディア では防災というテーマから一歩踏み込んだ、
川崎さん自身の想いや価値観について迫っていきたいと思います。
取材・文:小川圭美
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