「親子で学ぶ、参加型オンライン 防災の授業」レポート

授業レポート

2023年1月21日 愛知県丹波郡扶桑町柏森小学校

岩手県からコーチの川崎さんが話す様子
東京都からTERAKOYA Program 主宰の小川圭美の様子

授業開催の経緯

いのちをつなぐ未来館で伝えていることと、柏森小の校長先生が子どもたちに伝えたいこと

 共働きも当たり前になった今、子育て環境は変化し、働き盛りでもある子育て世代にとってPTA活動は時に負担になる傾向があります。それによりPTA活動の外注がメディアでも報道され注目されています。

今回TERAKOYA Programで授業を行った柏森小学校のPTAのお母さんたちは負担軽減ではなく、「どうせやるならもっと子供にとって意味のあるPTA活動をしよう」 という目的で保護者向けの講演会などを担当する「家庭教育委員会」 PTA活動の中でも負担の大きいと言われています。理由は決めるべきことが多く、”いつ、誰を呼び、どんなテーマ”にするのかという決め事をする中で“誰を呼ぶのか”という人選は、学校の課題や各家庭のバランスと意義、予算も考えなければならず実は労力が大きいのです。実際に活動の実態は例年通りで行うことが多く、ヨガやアクセサリー制作など似たようなものになってしまっていました。

しかし「どうせやるならもっと子供にとって意味のあるPTA活動をしよう」とPTAのお母さんが主体となり、学校に無料でキャリアの出前授業を提供しているイコールチャンス株式会社が主催するTERAKOYA Programを招致しました。

さまざまな授業を検討するなかで、災害があった際学校にいる子供たちを守るためには「地域性を反映した学校独自のマニュアルや対応が不可欠と言われています、(文部科学省:学校防災マニュアル)それを意識し、必ずくると言われている自然災害から自分と大切な人の命を守ることができるよう、当時中学2年生で東日本大震災を経験した川崎杏樹さんをコーチにお招きし今回の特別授業が開催されることになりました。

いのちをつなぐ未来館では、震災は必ず来るものとし、それに備えることで自分と大切な人の命を守ることができることを伝えています。

それを学校がお休みの時に、「家庭で家族一緒に学ぶ」と言う体験をしてほしいと柏森小学校の校長先生の想いのもと、休日に希望参加者を募り開催することとなりました。

なぜリモート授業だったのか? ICTの活用

ICT教育の推進が求められていますが、実際に授業で使うことは学校や先生によってバラつきがあるのが現状です。被災地である岩手県釜石市と開催小学校のある愛知県丹羽郡、主催の拠点である東京の3箇所が実際に繋がり開催することで、遠く離れたところでも、繋がり話し、学ぶことができることを体験してもらいました。日本だけでなく、いずれ世界とつながり学ぶこともできると知り、可能性を広げていってもらいたいと思います。

また、子どもたち自身でPCを操作して授業に参加することで、よりICT教育を定着させる形を意識しています。

震災当時の様子を聞く様子
震災当時の様子を聞く様子

授業の立て付けについて

 一方通行にならないよう、リモートであっても子どもたちが親子で考え、自発的に参加できるよう工夫したこと

学校と企業連携にありがちなことなのですが、外部講師の授業は「先生がずっと喋っててつまらない」これは、子ども達の実際の声です。オンラインだけでなく、オフラインでさえつまらないのです。

だからこそ、仕掛けと工夫が大切で、”楽しい”を散りばめながら学んでもらいます。
楽しく学んだ経験は、子どもの心のどこかにタネを植えてくれると思っています。

子供達の集中力は本来、素晴らしいものがあります。けれど、つまらなければ集中が途切れるのは一瞬、あっという間に授業にあったはずの「今、ここ」の瞬間から離れて、子どもの心が惹かれる別の何かの「今、ここ」に移行されていきます。

そこでTERAKOYA Programでは、授業の説明である導入の段階から質問を交え、子ども自身でZoomマイクのミュートをオフにして話すなど、手を挙げ発言するつもりの子だけが参加するだけでなく、コーチやアシスタントの判断で参加者をどんどん巻き込んでいきます。つまり、いつ誰が指されるか分からないので、ドキドキしているうちに気がついたら授業に参加してしまう楽しさやワクワク感が大切です。授業が進行している「今、ここ」に集中をするだけで、学びになり、楽しめる工夫はオンラインのみならず、オフラインでも教える側が工夫するべき必須事項だと考え、授業を構成しています。

今回は親子参加型ということもあり、お父さん、お母さんも子どもと一緒になって考えてもらうため、たった今、地震が来たら、何を持って逃げる?と3分程度でお家の中のものを親子それぞれがバラバラの物を持ってきてもらうというワークなど、実際の震災時と同じような”慌てる感覚”を自然と楽しみながら感じてもらえるような工夫をしました。

コーチである川﨑杏樹さんが、東日本大震災の時にとっさに行動出来たのは日頃から防災訓練をしていたことと、その防災訓練が楽しい授業だったということがポイントだったと言います。津波の速さは水深10メートルでも約40キロのスピードになることから、防災訓練になると先生方が校庭に車を用意して生徒達と競争をするなどして、子ども心に津波はすごいスピードで来るから早く逃げなければ逃げきれないという思いと共に、楽しい時間だっとも記憶していたそうです。

そこで今回の授業でも、「震災から身を守る」という一見重苦しいテーマですが、「楽しく備える」をコンセプトに子ども達の記憶に、親子で話し合い自分と、大切な人の命を守るための備えのきっかけとしてもらえるように工夫をしました。

「大きな地震が来た!家から避難!何が必要かな?」のワーク
大きな地震が来た!家から避難!何が必要かな?」の ワークで持ってきたものを発表する様子

当日の子どもたちの様子

当日の子どもたちは、自宅にいるのでマスクを無しで参加。
初めは緊張した様子で画面上に写っていましたが、導入が始まると手を振ってくれてたり、
笑顔が見られたりと、この授業を”自ら選んで参加している”子どもたちの積極性を感じました。
マスクをせずにお互いの表情が見えた状態で、授業に参加できることはオンラインだからこそ叶いました。

前半にあった東日本大震災の実際の写真を交えた体験談では、津波の様子をまじまじと見る様子は、あの日を知っている大人とは違い、恐怖というよりは”こんなことがあるものなんだ”という単純な興味のようにも見えました。「どこか遠い、誰かの大変な経験」だからこそ、防災教育が大切だと私たちは再認識しました。

その後のワークでは、実際に家の中から震災時に備えておくべきものや、持ち出すものなどを3分程度で持ってきてもらい、何を持ってきたか、なぜそれが必要だと思ったのかをそれぞれの言葉で話してもらいましたが、それぞれ自分自身の言葉で堂々と話せていました。

クイズに参加する児童と先生たち

授業を受けた5年生の感想

「避難するときは先生の指示を待つだけではなく、自分の頭で考えて行動することが
大事だと思いました。また、災害が起こる前に避難する場所に必要なものを
準備することが大事だと思いました。」

校長先生の感想

「震災を経験した人の気持ちを想像するといろんなことを思った。津波のいろ、
においの記憶は鮮明でも、津波から逃げるときの記憶が途切れ途切れであるという
コーチの体験の話が印象に残った。
自分で考えて行動するという、今回学んだことを生かして今後の教育に生かしたい」

編集後記ーこの授業をやってみて運営が感じたこと

東日本大震災以降に生まれた子ども達の数は約1,100万人。

東日本大震災の記憶がない子どもたちは今や人口の1割になります。(厚生労働省 出生数、合計特殊出生率の推移) あの大地震、大津波を知らない世代を育てる世代を育てる愛知県のPTAのお母さんち主導という形でこの授業に取り組めたことをとても嬉しく思っています。このまま震災の記憶と危機感を東北だけに押し付けてはいけない。次の世代にも繋いでいかなければならないという思いのもと、東北、東京、愛知が繋がり実現したこのオンライン授業。コロナ禍により、急速に取り組まざるを得なかったICT活用にオンライン教育。まだまだ未開発ではありますが、伝えていく大人が取り組みを工夫さえすれば、子ども達はオンラインでも「今、ここ」に集中しながら学ぶことができるのです。私たちTERAKOYA Programは子どものオンライン教育の可能性を感じることが出来たと同時に、オフラインでの授業だからこその体験にも見直しをかけるべき気づきも多く、伝える側の責任を改めて感じることができた授業でした。

小川圭美

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