2024年3月14日 東京都中央区立阪本小学校
デジタルネイティブな子どもたちと大人のギャップ
新型コロナウィルスが猛威を振るう中、日本ではICT導入が一気に進み、小中学生の一人一台端末が叶いました。デジタルネイティブと呼ばれる彼らは、物心ついたころからスマホをはじめ、デジタル機器が身近にあり、自然と使いこなしながら成長してきています。彼らにとってはデジタルやSNSでのコミュニケーションは、大人の私たち以上に当たり前の環境です。大人でもSNSやデジタル機器との適切な距離感覚には個人差があり、そして正解もありません。
では、「子どもたちにはどう伝えていくのがより良いのか」ということを私たちTERAKOYA Programは考え、以前より金融教育やデジタルシティズンシップ教育研究など先進的な教育活動を積極的に行い、子どもたちの学びを後押しする中央区立阪本小学校と共に、デジタル化がもたらす新しい課題にチャレンジすることにしました。
目まぐるしいスピードでテクノロジーが発達しているからこそ「人間の心と体験の可能性」に着目。デジタルとAIの持つリスクとベネフィットを理解し、状況を的確に判断して言葉にする語彙力や、人間の学びや体験、心の素晴らしさに気がつける様な授業を目指すこととしました。
テクノロジーの進化に適応している子どもたち
私たちはまず、子どもたちが普段どのようなデジタルツールやSNS、AIに触れているのかを知るために授業の冒頭で問うことにしました。子どもたちの注目する教室前方にある大きな画面にSNSなどのアイコンが散りばめられているスライドが映し出されると、手を上げ、元気に「あれもこれもやったことがある!」という声が聞かれました。
オンライン上でできるゲームやSNS、様々なジャンルのものに子どもたちが触れていることがわかりました。今回は5、6年生それぞれに授業を行いましたが、学年によっても興味の度合いが違う印象を受けました。
緊張がほぐれたところでコーチの紹介です。
コーチは社会で実際にAIを活用し、世界で活躍するデータサイエンティスト100にも日本人唯一選出された坂本コーチをお招きしました。坂本コーチは以前より、TERAKOYA ProgramでAIについての授業を行っていただいている、子どもたちに大人気のコーチです。
さっそく早速授業がはじまり、AIについて授業を受ける前の印象を問うと子どもたちからは、
「なんでもできて便利」「未来的」「便利だけど悪いこともできちゃう」というポジティブなイメージだけでなく、「想像力や適応力がない」や「うまく使えなかったら害がある」などネガティブなイメージも持ち合わせていることに驚きました。
α世代と呼ばれるデジタルネイティブの中でも生まれた頃からスマホがありZ世代と比較してもよりナチュラルに生活のなかにデジタルやAIというものがあるのでしょう。
4年前にも坂本コーチの授業を小学校5年生に開催したときからも、テクノロジーはものすごいスピードで進化し、それに子どもたちは適応していっているということを感じました。
画像生成AIで実践型デジタルシティズンシップ教育
TERAKOYA Programでは「体験すること」を大切にプログラムをデザインしています。主体的に参加する仕掛けを散りばめながら、昨今見聞きすることが多くなった”生成AI”をテーマに、子どもたちに体験をしてもらいました。
まずはじめに体験してもらったのは、文章生成AI「ChatGPT」。ビジネスシーンでも取り入れられることが多くなり、使用したことがある方もいるのではないでしょうか。
阪本小学校のある東京都中央区の観光スポットやおすすめのお店など、今日来てくれたコーチに「行ってみたい」と思ってもらえるような場所をおすすめして欲しいと伝え、いくつか発表してもらうことにしました。子どもたちは自分が住んでいる地域のことを目を輝かせながらコーチに紹介していました。
では、これをAIに聞いてみたらどうでしょうか?
ChatGPTの操作はコーチが行いながら、実際に「中央区の観光スポットを教えて」と入力をすると、ずら〜っとChatGPTが整理した情報を文章で提示してくれます。
子どもたちは「おぉ〜!!」と歓声を上げながらも、すぐに間違いに気がつきました。「中央区のものじゃないのがある!!」「間違ってる!!」 と指摘しました。
そうです、ChatGPTが出してきた回答は、東京駅丸の内駅舎や東京タワーなど中央区の近隣も含んだ観光スポットでした。これはハルシネーションという現象で、事実ではないことをAIがもっともらしい言い回しで回答することをいいます。
子どもたちは3〜4年生の頃に、地域についての学習をしていて知識があります。しかし知識だけでなく、この地域に住んでいる子どもたちは自らの体験を交えたおすすめスポットをコーチに勧めていました。
AIだけでなくネット上にある情報には間違いもあり、情報を鵜呑みにするのではなく自分自身できちんと精査して使用する必要があるということをハルシネーションというAIの未完成さを体験することで、改めて体験や経験、日常の学びから得た知識もまた大切なものだと理解を促す体験をしてもらいました。
これは、同校が以前より研究授業として取り組んでいる「デジタルシティズンシップ教育」の学びとの繋がりを意識し、日常教科や学校の取り組みとの連続性はとても意味のあるものだと思っています。
休憩を挟んで、2つ目の体験はこちらもテクノロジーの進化がめざましい画像生成AIを
Canvaというグラフィックデザインツールを使用し、5人程度に分かれたグループワークで体験します。
ひとつのグループにはひとりのTA(ティーチングアシスタント)が付き、子どもたちの活動や思考をサポートすることで、子どもたちが自ら考える力をサポートしていきながら、AIにプロンプトという文章で指示を出すことで「ブレーメンの音楽隊」の動物たちが重なったイラストを生成させます。
初めは個人で考え、グループで実際に使うプロンプトを決めて生成することで、個人の考察とそれぞれ考えを持ち寄ることで他者の多様な考えを知り、グループで力を合わせ発展させる力を養うことを目指しました。
各グループが出したプロンプトは、よく考えられていて「ブレーメンの音楽隊」という固有名詞を使うチームや、「茶色いロバの上」と具体的な様子を言葉にするチームもみられました。しかし一度でロバの上に他の動物を順番に乗せることは難しく、教室のあちこちで楽しそうな声で改善の案が飛び交っていました。
楽しみながら、今できたことよりもより改善をしようと考えをめぐらせる子どもたちの様子は「学ぶ姿」を考えさせられるものでした。正解に辿り着くまでの道のりを自らの思考をめぐらせる当たり前のことも、失敗を恐怖に感じることで絶たれてしまうこともあるのではないのでしょうか。チャレンジすることとは、試してみることでもあり、失敗や挫折もチャレンジの過程であって、失敗をしたからこそ改善してより理想に近い形に近づけていくということで学びが得られます。
「指示の出し方が上手くいく鍵だよ」「小さく変更を加えて、試してみるといいよ」とコーチからのアドバイスを受けながら、授業では2回目の改善を行い、少し改善したチームもそうでないチームもありましたが、大盛り上がりのうちにワークは終了しました。
体験は自発的な興味と理解に繋がる
授業の終盤にコーチが伝えたメッセージは
「皆さんにやっていただいたワークがAIの現状です。上手に使わないと使えないわけです。だからこそ、AIを指示するプロンプトを上手に出せる人はプロンプトエンジニアと呼ばれてこれからとても活躍するでしょう。そして、皆さんが経験や体験から得た知識がAIをつくります。テクノロジーは進化しています、皆さんも怖がらずにどんどん使っていって欲しいと思います。」
コーチのお人柄がわかる優しい語りかけは子どもたちの心にしっかりと残ったようで、事後のアンケートからも「もっと上手に指示を出すことができたら、AIの力を引き出せるようになる」など、この体験が子どもたちにとってAIという学びの経験となっているのがわかるコメントがたくさんみられました。
また今回の授業で4回ご一緒していただいている5年生の担任である亀井先生は
「プロンプトは国語、文章力が必要なんだね。地域のことは社会で学んだことだね。この授業を日常の授業に落とし込んで活かしていきましょう」
と授業の結びに仰ってくださったのが印象的でした。なぜなら私たちは、日々子どもたちと接している先生方と共に社会がもっと積極的に協力しながら子どもたちを育てていくことが、今後とても大切な要素になってくるものだと考えているため、今回担任の先生や校長先生からいただいた言葉は私たちにとって大変嬉しいものでした。
近い将来、社会全体でAIが活用されるようになる時がきます。これから更に発展するテクノロジーに対して恐れをいだくのではなく、上手に活用できるように子どもたちが情報をどのように取り入れ、精査して、自分の考えを表現発信するのかモラルも含めて、社会のプロから学べるということはとても有意義なことであると私たちTERAKOYA Programは考えています。
オフラインの経験や体験はひらめきやチャレンジする心を養います。だから私たちはたくさんの経験や体験を子どもたちに届けたいと思っています。一方で世界的にはデジタル依存やネット依存、ゲーム依存など様々な言葉で表現されているデジタル依存が問題視されています。しかし、問題はデジタルではなく「依存」です。もちろん気をつけなければいけないことはありますが、だからこそ避けるだけではなく学ぶことが大切です。そしてそれを子どもだけでなく親も理解しながら、子どもたちをサポートし、自分なりの付き合い方を見つけていく一助となるよう働きかけていきたいと思っています。
小川 圭美
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